この照らす日月の下は……
07
またの再会を約束してラクス達はプラントへと帰って行った。
「……何かつまんない」
彼女と一緒にいたのはほんの一週間ほどだ。それなのに、どうしてこんなに寂しいのだろうか。
そう考えればすぐに答えは見つかる。彼女のように《自分》を見てくれる人間がいないからだ。
だが、それが普通だったのに、と疑問に思う。
少し考えてからそれが寂しいと今まで認識しいていなかっただけなのだ、とキラは今更ながらに気付く。
「一人じゃ、ご本読んでも楽しくない」
誰か一緒にいてくれればいいのに。そう付け加えたときだ。
「我で良ければ付き合ってやろうか」
その時だ。頭の上から声が降ってくる。
「ギナ様」
視線を向ければサハクの双子の内の一人が確認できた。
「お一人ですか?」
「姉上はあちらで皆と話をしている」
自分はつまらないから逃げてきた、と彼は堂々と付け加えた。
「ギナ様、いいの?」
「お前を一人にしておくよりはな」
こう言いながら、彼はキラの身体を抱き上げる。そして、膝の上に座らせてくれた。
「あちらには姉上がおる。必要ならば、後で教えてくれよう」
彼はそう言ってくれるけれど、本当にいいのだろうか。一瞬そう考える。だが、ギナが『いい』と言ってくれているのだからかまわないのではないか。すぐにそう結論を出した。
「それで、何の本を読んでおったのだ?」
ギナがこう問いかけてくる。
「これ」
キラがギナに見せたのは、ラクスがくれた昔話の本だ。何でも人間が宇宙に出るよりも昔、まだ、他の大陸に行くこともできなかった頃からあったお話だという。
代わりにキラは地球の海の写真がたくさん載った本をラクスに渡した。プラントには海がないから、と言って彼女はとても喜んでくれた。もっとも、キラも本物の海はまだ見たことがないのだが。それでも、きっとオーブ本土に戻ったときには見られるだろう。
そんなことを思い出しながらキラはギナの顔を見上げる。
「ほう。キラは紙の本が好きか」
「うん。触ると気持ちいいから」
「そうか。それでは今度の長期休みまでに家の本を虫没しておかなければな」
たくさんあるぞ、と彼は言う。
「読めないものがあれば我でも姉上でも読んでやろう」
「本当ですか?」
「嘘は言わぬよ」
もっとも、とギナは笑みを浮かべた。
「今はこの本だがな」
さて、と言いながらギナは本を開く。キラでも文字を追いかけやすいようにゆっくりと読んでくれるのが嬉しい。
でも、氷のお城というのはどのくらいの大きさなのだろう。
そんなことを考えながらキラはギナの声を聞いていた。
「ふむ。こういう物語の世界を体験できるシステムを作るのも楽しいかもしれんな」
不意にギナがこう言ってくる。
「バーチャルでやれば本土でも遊べよう。我も暇つぶしになるしな」
「楽しそうです」
「だろう? その時はキラも手伝っておくれ」
ギナは言葉と共にキラの髪をなでてきた。
「お手伝い、ですか?」
「もちろん今すぐではないぞ。たくさん勉強してからの」
それならば大丈夫だろうか。
「はい。僕、たくさんお勉強しますね」
「いい子だな」
ギナの言葉にキラは嬉しそうな表情を返す。その時にはもう、先ほどの寂しさは忘れていた。